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山口地方裁判所 昭和40年(行ウ)8号 判決

原告 医療法人 博愛会

被告 宇部税務署長

訴訟代理人 山田二郎 外六名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

原告が昭和二六年四月一日から肩書地において病院を経営する医療法人であり、江沢正人、高木康光、江沢奈珠は原告法人の役員(ないし看做役員)であることは当事者間に争いがなく、右三名に対する年一〇%を超える支払利息が過大な報酬と認定された場合の本件各処分の税額の計算関係は当事者間に争いがない。

よつて、本件の唯一の争点は、右三名に対する年一〇%を超える支払利息(この金額自体は当事者間に争いがない)について、被告が、原告の計算を否認して右金額を役員報酬と認定し、その損金算入を否認したことが、適法であるか否かの点にある。

一、(1)  原告は、昭和三五ないし三七年度中の総出資口数四五〇口のうち江沢正人二二五口、高木康光一二五口、江沢奈珠二五ないし一五口を中心とする同族的色彩の強い法人であるところ〈証拠省略〉原告法人の診療収入、申告所得の金額は、昭和三五年から昭和三七年にかけて別表三の(三)記載のとおり上昇していたことは当事者間に争いがなく、原告代表者本人尋問の結果によれば当初五、六〇にすぎなかつたベツド数が昭和三五年頃は一七〇に、現在は二〇七に増加し、山口県下の医療法人中最高であることが認められる。そしてそのための病棟増設資金は、山口銀行港町支店の融資に依存していた〈証拠省略〉ものであり、原告法人が役員に対する支払利息を年二割四分と定めた昭和三四年七月末〈証拠省略〉当時には病棟の増設も進捗して経理内容は漸次好転し、これに伴い金融機関に対する原告法人の信用は相当厚かつたであろうと推測される。

(2)  証人池田金一の証言によると、役員に対する支払利息は無担保の場合でも通常年六分以内であることが認められ、さらに同証人ならびに証人大西勇の各証言によると普通銀行、相互銀行の利率は日歩一銭七厘ないし二銭三厘であつて年利一割以下であり、原告法人の金融機関からの借入利率も日歩二銭六厘すなわち年利一割以下であつたことが認められる〈証拠省略〉。

(3)  証人大西勇、同高木康光の各証言ならびに原告本人尋問の結果によれば原告法人は役員、使用人からの借入金を以てこれら金融機関からの借入金の返済に充てていることが認められるから、役員、使用人からの借入利率中、これら金融機関からの借入利率を超える部分は、現実の必要性を欠く不相当なものであり、むしろ役員等に対する恩恵的報酬ないし賞与の性質を帯びるものであることが推認される。

(4)  しかも原告法人が役員以外の使用人である高木セツ、日高照子、牛島卯雄の三名から別表三の(四)記載の金額をそれぞれ借入れていることは当事者間に争いがないが、高木セツに対しては利息の支払をしておらず、日高照子も昭和三七ないし同三九年度分について受取利息の確定申告をしておらず、これについて原告法人も損金算入をしていない事実が認められる〈証拠省略〉。従つて、前出甲一六号証に昭和三四年七月従業員からの借入金につき月二分以上の利息を支払うことを決議したとあるのは、単に形式を整える意味合のものであつたとみられ、役員に対してのみ二割四分という高額の利息支払を必要とした事情はなかつたものと認められる。

以上の事実を総合すると昭和三四年八月二四日付国税庁長官通達の線に沿い、原告法人が高木康光、江沢正人、江沢奈珠に支払つた年二割四分の利息のうち、通常銀行にて取引される利率年一割の限度で損金算入を認め、これを超える部分を役員報酬ないし役員賞与とみなした被告の処分は適法であるというべきである。

二、医療法人の理事長、事務長、理事の報酬の実例は、別表五の(一)、(二)、(三)記載のとおりであることが認められるところ〈証拠省略〉原告が支出した役員等の正規の報酬および被告の否認した利息の超過相当分は別表三の(一)記載のとおりであり、原告法人の使用人に対する給与支給状況は別表三の(二)記載のとおりであつて(争なし)原告法人の役員の前記正規の報酬のみを比較して他の医療法人のそれよりもまた原告法人の使用人の給与よりも高額であることが明らかであるから、被告の否認した利息超過相当分は旧法人税法施行規則一〇条の三にいわゆる過大報酬ないし同規則一〇条の四にいわゆる役員賞与として原告法人の所得計算上損金算入を許されないものというべきである。

(以上一、二の認定に反する証人高木康光、同日高照子、同名和田豊の各証言ならびに原告代表者本人尋問の結果は当裁判所の措信しないところであり、他に以上の認定を動かすに足る立証がない。)

三、したがつて、右支払利息(借入金利息)を別表一の(一)、(二)、(三)記載の当事者間に争いのない所得と合算して原告法人の総所得金額を算定したうえ、これに当事者間に争いのない税額の計算を適用してなした本件各法人税更正処分、および、右支払利息を役員報酬と認めたうえ、これに別表二の(一)、(二)、(三)記載の当事者間に争いのない税額の計算を適用してなした本件各源泉所得税等賦課決定処分は、いずれも適法であるから、原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡村旦 大前和俊 平山雅也)

別表〈省略〉

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